沖縄県は日本有数の観光地であると同時に「最貧困県」であることも知られています。貧困と切っても切れない関係なのが「売春」。『沖縄アンダーグラウンド 売春街を生きた者たち』は,そんな沖縄の売春街を描いたルポルタージュです。
沖縄に行ったとき,旅行情報誌に載っているアクティビティが好きな方には向きませんが,「松山(歓楽街)の方が気になる」という方なら間違いなく楽しめる一冊だと思います(ただ「キャバクラや性風俗店が好き」など単純に夜遊びが好きという方には向かないと思います)。
本書は,「沖縄の別な顔も見せてあげましょう」というタクシードライバーに連れられて,「真栄原新町(まえはらしんまち)」(現在は閉鎖)に到着するところからはじまります。ちょんの間の料金は15分で5,000円。これは本番行為まで含んだ値段です。ここから,どのような人たちが生きてきたのか,ヤクザによる人身売買,戦後の沖縄の米兵犯罪などが描かれていきます。
(沖縄県那覇市の北東に位置する宜野湾市にある真栄原新町/閉鎖)
本書にもたくさんの参考文献が掲載されていますが,中でも興味深いのは,ノンフィクション作家の佐木隆三さん(1937-2015年)の『沖縄と私と娼婦』(1970年,沖縄返還前の売春がわかる貴重な一冊)でした。こうやって一冊の本から関連書籍が派生するのも読書の楽しみのひとつです。
1952年,沖縄がアメリカの統治下になると米兵による凶悪犯罪(とりわけレイプ)が増加しました。
沖縄における米兵による夥(おびただ)しいレイプ事件の実例は目をそむけたくなるものばかりだ。父親の目の前で娘が強姦されたり,母親が同時におそわれた事例もある。兵舎内に連れ込まれたり,家に侵入してきた米兵にレイプされた事例も目立つ。母親の目の前で娘が連れ去られて行方不明になったり,病院に重傷を負って入院している女性がおそわれたケース,戦争で家族全員を失った少女に食べ物を与えると騙して基地内に連れ込み,輪姦したケースもある。掘っ立て小屋のような住居では防衛のしようもなく,米兵たちはいとも簡単に軍靴で玄関を蹴破って屋内に入ってきて,女性たちを拉致し,レイプした。
第6章 「レイプの軍隊」と沖縄売春史
米国政府はこれらに対し,ごく散発的に逮捕を行い,「遺憾」とするだけだったといいます。本書では実際に約5ヶ月間の被害を抜粋して引用していますが,目を背けたくなるものばかりでした。
見どころをもう一点。本書では,1971年に公開された幻の映画『モトシンカカランヌーー沖縄エロス外伝』(本土復帰前の沖縄の政治闘争や米軍の様子を描いたドキュメンタリー映画。監督・布川徹郎)の主人公「アケミ」(17歳の売春女性)を演じた女性を捜すシーンがあります。
タイトルになっている「モトシンカカランヌー」とは,沖縄の言葉方言で「元手がかからない仕事に従事する者」,つまり「売春」を意味します。
(作中で主人公のアケミが唄う「十九の春」が見られるYouTube動画)
僕も気になって映画について調べてみると,たまに上映会が開催されていました(行ってみたい)。
本書の著者は,少年による犯罪などを中心にした著作を持つノンフィクション作家の藤井誠二さんです。2018年に出版された『沖縄アンダーグラウンド 売春街を生きた者たち』は,沖縄書店大賞を受賞しました(←僕もこちらをきっかけに沖縄の書店で知りました)。
沖縄は「平和と反戦の島」というイメージは間違っていません。しかし,その言葉の影に存在するモノを見るのもおすすめです。僕もここから沖縄の売春についての本を一気に読むようになりました。
書名 | 沖縄アンダーグラウンド 売春街を生きた者たち |
著者 | 藤井誠二 |
出版社 | 講談社 |